石田康二は遊覧飛行機ダブの副操縦士なのだ。スチュワデスの敬子が恋人だ。--岩見産業の岩見社長が射殺され、犯人は逃走したというニュースを、康二は飛行場の事務所で聞いた。敬子は日東タイムスの記者、長沼弓江にインタービューされていた。そのとき、八丈島の飛行場事務所から島の子供が破傷風にかかり至急血清を送れという報せが来た。弓江の血清の手配を手廻しよくすませた。ダブ機の故障で、島まで三百キロの海上飛行はセスナ機によるほかない。誰も尻ごみするのを、康二が買って出た。乗客はダブをチャーターした大橋というもの柔らかな若紳士と、特ダネだからと社に頼みこみ特派された弓江の二人だけである。初めて飛行機に乗った弓江ははしゃいでいた。大橋は八丈島生れで、母の墓参に帰るのだという。彼は左手の小指がなく、また胸ポケットからピストルがのぞけたのを弓江は見た。大島上空で、ラジオのニュースを聞いた弓江の頬がこわばった。「岩見殺しの犯人は左手の小指のない板垣一郎という殺し屋だ」と放送されたのだ。見破られたと知った紳士大橋は一ぺんにべらんめえ口調の殺し屋に変った。「八丈へは降りさせねえぜ」コルトを康二の脇腹にあてた。八丈の西の小島に着陸させ、待っている仲間の船で香港へ脱出しようというわけだ。康二は機を急上昇右旋回させ、板垣の腕をかかえこみ、遭難信号を発しようとした。そのとき、板垣の手がマイクコードをひき抜き機外へ放った。--セスナの機体震動が急にひどくなり、新島へ危険な不時着をした。機体点検のスキに康二は板垣に躍りかかり、ピストルを奪うが、敵はもう一つ持っていた。康二は無理をしなかった。夜が来た。板垣も離陸を夜明けまであきらめたようすだ。とんだクリスマス・イヴだ。このままでいけば、板垣のピストルのエサになるだけだ。それに子供の命は?康二は離陸の直前、プロペラの前に板垣を立たせ、操縦席の弓江にサインを送った。いきなりプロペラは回転され、板垣の体を地面に叩きつけた。離陸する機へ、血だらけの板垣が撃った。康二の右腕が射抜かれ、ガソリンタンクに当った。--ガソリンを使い切ったセスナ機が失速状態におちいりながらも八丈島に着陸した。飛行場の小屋に突っこみ翼をへし折った。「血清を子供に早く……」康二は血みどろの腕のまま気絶した。--翌日、羽田から敬子たちが乗ったダブが迎えに来た。明るい顔の康二と弓江を乗せて離陸した機を、島の子たちが手を振りながら追った。