成瀬美津子は満たされぬ心を埋める“何か”を求めて、インドツアーに参加した。観光客を乗せたバスは聖地ベナレスを目指し、大平原の中を疾走する。美津子は自由奔放な学生生活を送りながら、耐え難い空しさに心を支配されていた10年前を回想した。秋のある日、美津子はクリスチャンの大津と出会い、彼を誘惑して、「神を捨てろ」と迫った。彼女にとっては全てがゲームだったが、真剣に揺れ動く大津を眺めて、美津子は「自分は神に勝ったのだ」と思った。たが心の空虚さは広がるばかりであり、結局彼女は大津を捨てた。傷心の中で大津は神学を志し、フランスへと旅立っていく。数年を経て、ふたりはリヨンで再会した。美津子は実業家と結婚し、何不自由ない生活を送っていたが、心の空しさは満たされることはなかった。神学校で学ぶ大津は「日本に戻ったら、日本人の心に合う基督教を考えたいんです」と夢を語る。美津子は大津との再会で、かつて紙屑のように捨てた彼が自分の心に少なからぬ痕跡を残していることを意識し始めた。満たされない心が癒えぬまま美津子は夫と別れ、病院でのボランティアを続けていた。そんな彼女の下にインドのベナレスに行くことになったというイスラエルの大津から手紙が届く。ベナレスへ向かう車中には美津子のほかにも、苦悩を抱き“何か”を求めるためにツアーに参加した日本人たちがいた。家庭を顧みることなく一途に働き続けてきた壮年の男・磯辺の目的は、死んだ妻の生まれ変わりと思われる少女を探すことであった。またビルマ戦線での命の恩人である戦友が、死の床で打ち明けた衝撃の事実に苦悩する老人・木口もいた。一行はベナレスの街に到着。美津子はガンジス河とガートで一心に祈る人々に圧倒される。彼女は磯辺や木口との交流を通じて、それぞれが人生の苦悩を背負い、ツアーに参加してきていることを知った。ベナレスの街で大津を探す美津子は、突然背後から呼び止められる。そこには薄汚れた身なりの大津が立っていた。彼はベナレスの街で教会を離れ、今はヒンドゥー教徒たちと生活を共にしているという。彼の心は昔と少しも変わっていなかった。美津子は大津との再会の後、意を決したようにガンジス河に身を浸した。自分が欲しかったものが何であったか、少しだけ解ったような気がすると、美津子は自らに語りかけた。やがて美津子は、あらゆる人間の哀しみや苦悩、死までも包み込んで流れる“深い河”に、いつしか自分自身が溶け込んでいくような安らぎを憶えていくのだった。