高知の山里にある坊之宮家は、〈取り憑かれると食い殺される〉と村人たちから忌み嫌われている狗神筋の家系である。41歳になる今日まで、結婚も人生も諦め、和紙を漉く日々を静かに送っている美希も、そんな血を引くひとりだ。そして、彼女には10代の頃、知らなかったとは言え、養子に出されていた実の兄・隆直と肉体関係を持ち、妊娠、死産した忌まわしい過去があった。ある日、奴田原晃と言う若い教師が村の小学校に赴任して来た。偶然、和紙工場で出会った美希と晃はいつしか惹かれ合い、やがて肉体関係を持つようになる。ところがそれ以来、村には不吉な霧が垂れ込め、村人が次々と変死する事件が発生。そして、それとは対照的に晃との情事を重ねる美希は、日毎に若返っていくのであった。そんな彼女を見て、村人たちは狗神の祟りだと恐れるようになる。美希を連れて村を出ることを決意する晃。だが、ふたりの間には驚くべき事実が隠されていた。実は、晃は美希と隆直の間に生まれた子供だったのだ。禁断の過ちを犯してしまったふたりの呪われた運命を知った当主・道夫は、先祖祭りの日、坊之宮家の者を皆殺しにすべく凶行に出る。美希を救うべく、惨劇の現場に乗り込む晃。しかし、彼は村人の放った銃弾に撃たれ倒れてしまう。