1995年初夏、松本市。高校の放送部に所属するエミとヒロは、一年前に起きた“松本サリン事件”での一連の冤罪報道を検証するドキュメンタリー・ヴィデオを制作していた。ふたりが訪れたのは地元のローカル・テレビ局。この放送局以外、どこも協力的ではなかったのだ。さて、局では報道部長の笹野と彼の部下で記者の花沢、浅川、野田がふたりのインタビューに答えてくれた。彼らは、事件当時の取材の様子を回想する。それは、閑静な住宅街で突然起こった死傷者を多数出した有毒ガス事件だった。翌日、警察は事件の被害者であり、第一通報者でもある神戸俊夫の自宅を容疑者不詳のまま殺人容疑で家宅捜査し、数種類の薬品を押収。その中から青酸カリが見つかったことから、神戸が薬品の調合ミスを犯して有毒ガスを発生させたとのではないか、という見解を示した。一方、スクープが欲しいマスコミ各社は、裏が取れていないにもかかわらず、警察情報として神戸が犯人であるかのように受け取れる報道を開始。更に、それを鵜呑みにした視聴者は神戸一家を迫害し始めた。もはや、神戸が犯人であることを誰もが信じて疑わなかった。事件で意識不明となった妻を抱え、自らも幻覚幻聴に悩む神戸は戸惑いを隠せない。ただ、笹野だけはあくまで裏が取れていないという理由から、神戸容疑者報道を控えていたが、彼にも視聴率を取りたい上司から圧力がかかり、視聴者や番組のスポンサーからもクレームが寄せられていた。やがて、有毒ガスはサリンであることが判明した。しかも、サリンは一サラリーマンの家庭で作られるようなものではないことも分かる。そんな中、あるカルト集団の影が捜査線上に浮上してくる。しかし、警察上層部は捜査結果を無視して、見込み捜査と情報操作を押し進めようとするばかり。そして3月、東京で地下鉄サリン事件が発生してしまうのである。話を聞き、幻滅するエミたち。笹野は、そんな彼らに報道する“目”、あるいはそれを受け取る“目”を期待していきたいと言った。とそこへ、カルト集団がサリン事件の犯行を認めたとの配信が届く。その後、笹野は容疑の晴れた神戸の特番を制作、番組は反響を呼んだ。