一代で莫大な財産を築きあげた富豪の大貫(役所広司)は、ある病院に入院していた。偏屈な彼の口癖は、「お前が私を知っているだけで腹が立つ。気安く名前を呼ぶな!」だった。その病院には、奇妙な患者ばかりがいた。大人の俳優に脱皮できず、人生を諦めた子役の室町(妻夫木聡)。消防車に轢かれた消防士の滝田(劇団ひとり)。そして、オカマの木之元(國村隼)、ヤクザの龍門寺(山内圭哉)、奇人の堀米(阿部サダヲ)。患者が患者なら、看護師もタトゥーの入ったタマ子(土屋アンナ)、雅子(小池栄子)と浩一(加瀬亮)の夫婦、さらにピーターパン気取りの医師浅野(上川隆也)と変わりもの揃い。そんな中に、天使のような少女パコ(アヤカ・ウィルソン)がいた。ベンチに座って、絵本『ガマ王子対ザリガニ魔人』を毎日読んでいるパコにさえ苛立つ大貫は、彼女を殴ってしまう。しかし、翌日になるとパコはニコニコ微笑みながら同じベンチで座っていた。彼女は、交通事故で両親を亡くし、その後遺症で記憶が1日しか保たない病を患っていたのだ。その境遇を知った大貫は、人生で初めて涙を流す。そして、病院で行われるサマークリスマスイベントで、彼女が愛読する絵本を舞台劇として再現することを思いつく。パコの心に残るために。演技経験のある室町をはじめ、これまでワガママ放題だった大貫の唐突な提案に患者や看護師たちは躊躇するが、やがて納得する。ガマ王子には大貫が扮して、宿敵ザリガニ魔人を室町が演じた。そして、メダカちゃん、ヤゴ、沼エビの魔女、アメンボ家来…。絵本と同じ衣装を着た彼らの芝居が、パコには絵本と同じキャラクターに見える。そして、めくるめく冒険が始まった! …ガマ王子が死んだあと、雨が降って花が咲く…。そんな絵本と同じラストを迎えた公演の後、息を引き取ったのは大貫ではなくパコだった。事故以来いつ息を引き取ってもおかしくない状態だったのだ。みんなに見守られ、息を引き取るパコ。しかし、パコの胸の中には、大貫の祈りの花を咲かせていたのだった。