ある地方都市。広瀬山中学三年二組の同窓会に出席した浦山は、そこで結婚して東京に越して以来、クラスメイトともずっと疎遠だった直子に再会する。クラスでも目立たなかった彼女は、今は離婚して中学生のひとり娘と帰郷し、「コキーユ」という名のスナックを経営しているらしい。初めはなかなか彼女のことを想い出せない浦山であったが、その後、東京支社へ左遷になった上司・黒田と彼女の店を訪れたのをきっかけに、ちょくちょく通うようになる。コキーユとは、フランス語で貝殻を意味する言葉で、シャン・コクトーの詩の一節「私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ」から彼女が取ったものだった。直子は卒業のお別れ会のプレゼント交換の時、浦山が贈ったコクトーの詩集と貝殻を当てていて、それをずっと大切にしていたと言う。そんな話をしていくうち、ふたりは次第に親密さを増していく。ところがある日、左遷を気に病んでいた黒田が自殺を図った。一命を取り留めたものの、黒田は病院のベッドの上で譫言のように学生時代に安保闘争を闘った初恋の女性のことを繰り返すばかり。そんな夫を見てショックを受ける彼の妻。黒田に請われて一緒に東京へ単身赴任することになっていた浦山は、崩壊していく黒田の家庭を目の当たりにして、家族と共に引っ越すことを決意。更に、コキーユで鉢合わせした同級生の谷川が、かつて直子と肉体関係にあったことを知り、店からも足が遠のいていくのであった。そうとは知らず、柘榴酒を作って浦山が店に来てくれるのを待っていた直子は、遂にいてもたってもいられず彼の勤める工場を訪れてしまう。そこで、直子は中学の卒業式前日に自分の気持ちを浦山に伝える為、くらかけ橋に来て欲しいと彼に囁いたと告白する。しかし、浦山は幼い頃の病気が原因で右耳が利かなくなっていて、直子の言ったことが伝わっていなかったのである。それからも、ずっと浦山のことを想い続けている直子。そんな彼女のひたむきな想いを知って、浦山は出張と偽って直子と山へハイキングに出かける。ふたりはそこでも想い出話に花を咲かせた。同じ山にハイキングに来たこと、校内マラソンで励ましてもらったこと_。道に迷って最終バスを逃したふたりは、旅館に泊まることにした。食事を終え、ふとんに入り結ばれるふたり。夜明け間近、浦山は直子と混浴の露天風呂に入った。それは彼女の夢でもあった。帰り、浦山は今までのことを妻に告白すると言った。だが、直子はそれを止めた。「大好きな浦山君の幸せを壊したくない」そして、浦山君とちゃんと恋が出来たと言って微笑むのだった。数日後、浦山は家族と共に東京へ引っ越した。だが、東京での暮らしが一段落したある日、彼は谷川から直子が雪でスリップしたトラックに轢かれて死んだことを聞かされる。郷里に戻り、直子の墓に詣でる浦山。彼は、そこで中学時代の直子にそっくりの娘・香織に会う。香織は、直子が息を引き取る時、「浦山君」と呟いたと浦山に教えてくれた。再び同窓会。クラスメイトは、会の初めに直子に黙祷を捧げた。とその時、隅の方からすすり泣く声が聞こえてきた。それは、声を押し殺して泣く浦山のものだった。