東京都多摩市の新興住宅地にある森本依志男宅で、寝たきりの老母、タツが死んでいた。安らかな死に顔ではあったが、所々にうっ血の跡が認められたため、田上刑事と吉川刑事は自然死ではないと推測する。予想どおり、その日の夕方、タツの夫の亮作が、自分が絞殺したと自首する。驚く依志男と律子。だが、田上刑事に語る亮作の言葉は支離滅裂だった。彼も取り調べ室で失禁するほどに惚けていだのである。森本家は依志男と律子の夫婦、子供の鷹男と直子、それに依志男の両親である亮作とタツの夫婦と三世代が同居していた。かつては平和な日々が続いていたが、タツに惚けの症状があらわれてからは、家庭内に波風が立ち始めてきたのだった。失禁を恐れてタツをトイレに押しこむ律子。そんな律子をタツは「鬼!」とののしり、なにかと彼女の看護をきらう。見かねた亮作は、タツを老人専門病院に入院させてしまう。だが彼自身にも惚けの症状があらわれはじめ、一人故郷の村に帰り、先祖の墓を掘り起こしては、自分をここに埋めてくれと叫んだりするのだった。タツを老人病院に入院させたものの、不憫に感じた律子は彼女を退院させ、家で面倒をみることにする。そんな律子に慰めの言葉をかける依志男。しかし律子は、「あなたの浮気よりはましよ」と、冷たく言い放つのだった。というのも、依志男には冴子という愛人がいて一度は関係が切れかかったものの、まだ別れずにいたのである。家に戻ったタツと律子の間には、以前にも増した憎しみ合いが続く。そんなある晩、タツを風呂に入れていた律子は、発作的に湯舟に横たえたタツの体から手を放し、沈んだままの彼女を見つめ続ける。律子は我にかえりタツは一命をとりとめる。そんな律子に亮作は、タツを楽にするなら、自分がやると言う。その後、亮作はガス栓をぬいて、タツと心中をはかる。その時は依志男に助けられたが、家庭崩壊は日増しに深刻化していった。タツは律子を遠ざけ、紙オムツさえも依志男にかえさせはじめる。そしてことあるごとに死なせてと、タツは叫ぶのだった。ある夜、皆が寝静まった頃、タツが枕元の洗面器の水に顔をつっ込んだ時、依志男は後から、そっと押さえつけた。火葬場に向かう車中で依志男は涙ながらに、それを告白するのだった。