広告代理店に営業マンとして勤める佐伯雅行(渡辺謙)は、長年、仕事に没頭してきた。今年50歳になる彼には、一人娘・梨恵の結婚と大きなプロジェクトを控え、ありふれてはいるが穏やかな幸せに満ちていた。そんなある日、佐伯は原因不明の体調不良に襲われる。重要なミーティングを忘れたり、部下の顔が思い出せなくなったりするのだ。心配になった佐伯は妻・枝実子(樋口可南子)に促されて病院を訪れ、医師から「若年性アルツハイマー」の診断を受ける。こぼれ落ちる記憶を必死に繋ぎ止めようとあらゆる事柄をメモに取り、闘い始める佐伯。毎日会社で会う仕事仲間の顔が、通い慣れた取引先の場所が思い出せない。知っているはずの街が、突然“見知らぬ風景”に変わっていく。そんな夫を懸命に受け止め、慈しみ、いたわる枝実子。彼女は共に病と闘い、来たるべき時が来るまで彼の妻であり続けようと心に決める。希望退職した夫に代わって働きはじめ、枝実子は家計を支えるようになる。梨恵の結婚式、初孫の誕生を経て、静かに時間は流れてゆく。時に子供のように癇癪を起こし、感情が昂ぶって泣きじゃくる夫を、枝実子は黙って包み込む。幾度もの夏が訪れ、病が進行した佐伯は枝実子の名も思い出せなくなってしまったが、枝実子は静かに夫を見守るのだった。