「笑わぬ男」路地裏にあるアパートで暮らす売れない作家の男(吹越満)と、その妻(夏生ゆうな)。病床に臥す妻は自分の死期が近いのを感じているのか、毎夜、細くなった白い足を夫に擦らせていた。ある日、桜が見たいという妻のために、男は桜が咲く裏山に向かう。「有難う」私婦の菊子(中村麻美)は毎晩違う男と寝ている。しかし彼女はいつも、今はもう会うことのないある青年(長谷川朝晴)のことを思い出していた。その青年は、菊子の故郷の乗り合いバスの運転手で、“ありがとさん”と呼ばれていた。ありがとさんはバスの中から、通り過ぎる馬車や大八車、馬にもありがとうと声を掛けていた。桜の咲く季節に、幼い菊子はありがとさんのバスに揺られ、街へと売られてきたのだった。「日本人アンナ」私(福士誠治)はある寒い日、財布をすられる。すった相手は、毎晩街の映画館でロシアの歌を歌っているロシア人の少女・アンナ(清宮リザ)だった。アンナに魅せられた私は、彼女が暮らす木賃宿を突き止める。私は夜な夜な彼女の隣の部屋へ通い、襖の奥からその姿を覗いていた。しかしある朝、アンナは忽然と姿を消してしまう。翌年の春、私は桜の木の下で、アンナによく似た美しい少女と出会う。「不死」新太郎(奥村公延)は、毎日同じ木の下で凧を揚げていた。ある日新太郎は街の雑踏の中で、今は亡きかつての恋人・みさ子(香椎由宇)の姿を見かける。新太郎とみさ子は手を取り合い、桜の木へと向かって歩き始める。そこは、みさ子が死んだ場所だった。新太郎は、満開の桜の木の下で凧を揚げる。