雄大な南アルプスの麓にある長野県大鹿村でシカ料理店を営む初老の男・風祭善(原田芳雄)は、300年以上の歴史を持つ村歌舞伎の花形役者。ひとたび舞台に立てば、見物の声援を一身にあびる存在である。だが実生活では女房に逃げられ、あわれ独り身をかこっていた。そんなある日、公演を5日後に控えた折も折、18年前に駆け落ちした妻・貴子(大楠道代)と幼なじみの治(岸部一徳)が帰ってくる。脳の疾患で記憶をなくしつつある貴子をいきなり返され、途方に暮れる善。強がりながらも心は千々に乱れ、ついには芝居を投げ出してしまう。仲間や村人たちが固唾を呑んで見守るなか、刻々と近づく公演日。そこに大型台風まで加わって……。ハテ300年の伝統は途切れてしまうのか、小さな村を巻き込んだ大騒動の行方やいかに……。