夏も終りに近い頃、スウェーデンの片田舎の森の中に、一組の男女の姿があった。男の名はシクステン・スパーレ(T・ベルグレン)という陸軍中尉で、伯爵の称号をもつ貴族だった。女の名はエルビラ・マディガン(P・デゲルマルク)といい、サーカスの綱わたりのスターである。シクステンには妻子があり、エルビラはスターといっても、しがない女芸人にすぎない。だが二人は愛しあった。この愛を守る道はただひとつしかない。シクステンは脱走しエルビラは家出してきた。森の近くの、こじんまりした宿屋に落ちついた二人は、しばし幸福の時をすごしたが、それも束の間、シクステンの身分が同宿人に、ばれてしまった。二人はそこを逃れ、とある湖のほとりの村へやってきた。しばらくの間は、魚釣りや舟遊びまでできた平和な日が続いたが、ある日のこと、シクステンの友人が現われ、残された妻や子供の悲しみを語り、エルビラの行為を責めるのだった。だがエルビラにしてみれば、シクステンは最高にして最後の人……と答えるしかない。二人はまた、逃走の旅を続けた。いよいよお金に困ったが、脱走兵のシクステンには仕事を探すすべもない。深く愛し合ってはいたが、二人にとっては、実にみじめな毎日がつづいた。いよいよ追いつめられた二人が愛を貫く道はただひとつしかない……。二人が森へ消えた直後、二発の銃声が轟いた。一八八九年ある晴れた日のことである。