家族のために、また自分の小さな幸福のために、ひたすら上役にゴマをすり、出世に身を削っていた一流広告代理店「共報堂」の営業部長三沢の家に、ある日癌の権威者坂田博士の孫を誘拐した兇悪脱獄囚川西とサブが逃げこんできた。彼らは三沢を利用して高とびするための身代金一千万円をまきあげようというのだ。そして、思慮深い年配の川西は、新潟にいる仲間と連絡をとり、船で逃げのびる計画をたて、翌日坂田博士に指定してあるデパートで身代金を受取ってくるよう三沢に命じた。家に妻の弘子や息子正夫を残してきた三沢は逃げだすわけにもいかず、指定されたデパートにむかっだ。がすでに、そこには私服警官が張りこんでいて、三沢は金をおいて、命からがらデパートから逃げだしてきた。恐怖心のトリコになり街をさまよう三沢には、最早家族のことより、自分の命と地位の方が大事であった。だが、そんなとき、三沢は路傍で強い愛情の絆で結ばれた貧しい親子の姿を見て心を打たれ、自分の貧しい心を恥じた。川西やサブの待ちうける家に帰った三沢は、すでに昨日の小心者の三沢ではなかった。なんとかして、妻や子を守ろうとする使命感が彼に勇気を与えたのだ。翌日川西は再び、坂田博士を呼びだし、場所を地下街プロムナードに移して、三沢に金を取りにいかせた。こんどは三沢も積極的に動き、無事金を受取った。だが大金を手にし、一瞬逡巡した三沢のとこに、成行きを案じたサブがかけつけてきた。が、サブが一千万円入りの鞄を引ったくろうとした瞬間、三沢は無意識のうちにサブを殴り倒していた。これに勇気を得た三沢は、さらに川西が待つ車の背後に忍びより、これにいち早く気ついた弘子の助けで、川西を車から引ずり降した。突然の逆襲に川西はあわてて逃げだしたが多勢の通行人にさえぎられ、逃げ場を失い、線路にとびだし、電車にはねられた。孫が無事もどり顔をほころばせる博士の横で、三沢は妻と子をしっかりとだきしめた。