大正初期。松枝公爵家のひとり息子・清顕と、公家の家系である綾倉伯爵家の令嬢・聡子。幼なじみのふたりは、互いを秘かに恋い慕っていた。しかし、清顕は心の未熟さから聡子への気持ちを素直に認められない。そんな中、聡子に宮家の王子・洞院宮治典王殿下との縁談が持ち上がる。清顕への想いを断ち切れない聡子は、幾度となく手紙を認め彼からの求愛を待ち続けるが、清顕は冷たい態度を取るばかり。やがて、聡子と宮家の縁談に勅許が下った。もう、引き返すことは出来ない。ところが、清顕はその時になって初めて聡子への愛に気づくのであった。堰を切ったように溢れ出ずる聡子への想い。ふたりは、人目を忍び逢瀬を重ねるようになる。だが、そのようなことがいつまでも続く訳もなく、聡子の懐妊をきっかけに、ふたりの仲は引き離されてしまう。堕胎した聡子は出家を決意した。それを知った清顕は、彼女を追って奈良の月修寺門跡のもとを訪れる。しかし、遂に聡子に会うことは叶わない。胸を患っていた彼は、次の世で聡子と巡り会うことを信じて、帰京の車中で息絶える。