【職人的手腕で撮影所の美点を引き継ぐ正統派】山口県下関市の生まれ。明治大学文学部演劇科、横浜放送映画専門学院(現・日本映画学校)を経て、1983年完成の西河克己監督「スパルタの海」で初めて現場を体験。以後、降旗康男、崔洋一、和泉聖治、杉田成道といった監督につく。チーフ助監督をつとめた「鉄道員(ぽっぽや)」(99)、「ホタル」(01)で撮影監督だった木村大作の後押しもあり、02年「陽はまた昇る」で監督デビュー。日本アカデミー賞の監督賞を含む4部門に選出されるなど、華々しいスタートを切った。故郷への思いが結実した第2作「チルソクの夏」(04)は、70年代の下関を舞台に、陸上部員の女子高生と韓国人の男の子との淡い初恋を瑞々しく描き、日本映画監督協会新人賞を受賞。横山秀夫の同名ベストセラー小説を映画化した「半落ち」(04)では、日本アカデミー賞最優秀作品賞などに輝き、「チルソクの夏」とあわせて新藤兼人賞も受賞した。その後も、再び下関を舞台に、溢れる映画愛を映画館の幕間芸人に体現させた「カーテンコール」(04)、原作に惚れ込み自ら映画化権を獲得したヒューマン・ファンタジー「四日間の奇蹟」(05)、「半落ち」に次ぎ横山秀夫の原作に取り組んだ「出口のない海」(06)などコンスタントに作品を発表。07年の「夕凪の街・桜の国」では、広島で被爆した女性の複雑な心情に寄り添うことで、声高ではなく慎ましい反戦映画として高く評価される。08年には、黒部ダムの建設に命を懸けた男たちのドラマと、その映画化の際に五社協定に立ち向かった石原裕次郎、三船敏郎のドラマとを交錯させた舞台『黒部の太陽』を手がけ、話題を呼んだ。【さまざまな現場で育まれた職人的手腕】三池崇史らと並び、今村昌平が開校した横浜放送映画専門学院出身。西河克己、降旗康男ら撮影所仕込みのベテラン監督に師事する一方で、数々のテレビドラマの現場も体験し、旧世代と新世代との橋渡し的な位置で監督となった。デビュー作「陽はまた昇る」をはじめ、「半落ち」「出口のない海」といったメジャー会社の大規模な作品と、「チルソクの夏」「夕凪の街・桜の国」など作家性溢れる小品とを、バランスよく両立させているところに、下積み時代にさまざまな現場で培ってきた職人的手腕が、遺憾なく発揮されている。役者に対してリアルな感情表現や動きを要求することでも知られ、「チルソクの夏」では水谷妃里、上野樹里ら、当時未知数であったが身体能力の高い新人たちの躍動感溢れる美しい走り姿を捉え、1年がかりで撮影した「三本木農業高校、馬術部」(08)では、映画初出演の長淵文音に馬術を徹底的にマスターさせ、役柄と同化した“素”の表情を引き出した。妥協を許さぬ撮影所出身の監督たちから薫陶を受けた正統派としても、一層の活躍が期待される。2020年3月31日、山口県下関市内で逝去。享年62歳。