男性の重圧に反ぱつしつつ、正しく生きることを希う女、敏子は雄々しくも強い自己本来の魂に目覚めていた。レビューの踊子敏子はやくざの町田の命令で箱根まで無理矢理に連れられていった。町田は足を怪我したらしく足を引きずっていた。駅ですれ違った町田の友人二人と、車中で見た三人組強盗の新聞記事。敏子は女の敏感さで、そこにただならぬものを感ずるのだった。箱根についたと思ったら、もう直ぐ浜松に行こうという。敏子の手を握っている町田の手は完全に一人の女の運命をつかんでいるのだ。それはいくらあがいても逃がれることの出来ないクモの糸の如く、町田の触手は執ようだった。どうしても悪事を働いた人間とは思われぬほど無邪気に笑っている町田を見る時、敏子はおそろしさにゾッとした。卑きょう者!世間知らずのショップガールをだまし、バーからダンサーと転々と渡り歩かせ、男から金をしぼらせ、前借をふみ倒させては逃げさせ、男故に転落して行く敏子。その転落の中にあっても敏子は絶えず、正しく生きるために町田と別れる以外の道のないことを知っていた。しかしその度に哀れっぽい町田の甘言にほだされる弱い女でもあった。熱海で途中下車したものの、町田は更生を誓ったそばから火事場騒ぎにつけ込んで、またしても窃盗を働いた。敏子はこの男の目から自己の将来をはっきり見とることが出来た時--あの人は強盗です。つかまえて下さい--と絶叫していた。敏子!救いを求める町田の声が耳に残っている。「でも愛されているからって、愛せるものじゃない。悪人は徹底的に憎まなきゃ、世の中に悪と善のけじめがつかなくなるわ。冷たい女といわれてもいいの」劇場にもどってきた敏子はまた舞台のそでで他の踊子たちと出番をまっていた。