バンド時代にカリスマ的人気を博したミュージシャンの花火は、独立後は創作意欲を失ってしまい、人里離れた田舎でキャベツを育てながら隠遁生活を送っている。会う人間といえば友人でカメラマンの理人だけだった。その夏、花火の前にひとりの少女が現われた。ヒバナと名乗るその少女は突然、花火の家に押しかけてきて、そのまま居ついてしまう。ダンサーを志すヒバナは、かつての花火の歌で踊り、早く新しい曲が聞きたいと言った。はじめはヒバナの行為に戸惑っていた花火も、やがてヒバナの存在を受け止めていくようになる。ヒバナのダンスを前にし、ふたりでキャベツ料理を食べ、ヒバナに素晴らしい風景の丘を教えられ、花火はまたピアノに向かうようになった。夜ごと月を眺め、水を極端に怖れ、近付いてくる夏休みの終わりをはかなむヒバナのことを慈しみながら、花火は曲作りを進める。理人はこのふたりを温かく見守っていき、ダンス関係者の森崎からヒバナの消息を聞いてその秘密を知ってからも、ヒバナに暖かく接した。夏休みも終わり、曲は完成する。花火とヒバナの間にも確かなつながりができたように思えたその時、ヒバナは花火の目の前から消えた。花火の曲とダンスがすべてだったヒバナは、ダンスコンクールに向かう際の台風の事故ですでに亡くなっていた。本名を火花里というその少女の正体を、理人から教えられた花火は、あらためて彼女への想いを込めながら、でき上がった曲を唄い始める。