“海坂藩”の下級武士・牧助左衛門の15歳になる剣術に長けた息子・文四郎と、隣家に住む幼なじみのふくは、秘かな相思の仲。だがある日、城内の世継ぎ問題に巻き込まれた助左衛門が、対立する側の家老・里村左内に切腹を命じられたことから文四郎の境遇は一変、罪人の子として、母・登世と共に辛い日々を送る破目になってしまう。そんな中、今度はふくが殿の江戸屋敷の奥に勤めることになった。出立の前日、文四郎に別れを告げにやって来るふく。しかし、ふたりはとうとう会うことが叶わなかった。それから数年、父の仇である筈の里村によって名誉回復が言い渡され、村回りの職に就いていた文四郎は、学問の修行を終え江戸から帰って来た友人・与之助に、殿の側室となったふくが子を身籠ったものの、世継ぎ問題に巻き込まれ流産したことや、その後、再び殿の子を懐妊・出産し、今は別邸“欅御殿”に身を隠しているらしいことを聞かされる。そんな文四郎に、こともあろうに里村からふくの子を攫って来いとの命令が下った。罠だと知りつつも、承諾せざるを得ない立場の文四郎はしかし、ふくの子を預かった後、里村の反対勢力で父が仕えていた家老・横山又助の所に駆け込む策を秘密裡に講じる。そして、友人の逸平や与之助らの力を借り、欅御殿に向かうと、ふくに事情を説明。押し入って来た里村派の刺客たちを倒し、ふくとその子を無事、横山の屋敷に送り届けることに成功する。数年後、殿の他界によりふくが出家を決意した。ふたりは、今生の未練として一度だけの再会を果たし、そこで初めて自らの気持ちを伝え合うも、最早結ばれる筈なく再び別れ行くのだった。