ギジェルモ・デル・トロと表記することがある。【闘いと幽玄の狭間を描くメキシコ映画界のニューウェーヴ】メキシコ、グアダラハラの生まれ。厳格なカトリック教徒である祖母に育てられた。8歳の頃から映画作りに興味を持ち始め、「エクソシスト」(73)などを手がけた特殊メイク・アーティスト、ディック・スミスに師事。1986年に初の短編映画を監督したあとは、会社“ネクロピア”を立ち上げ、主にメイクアップ・アーティストとして活躍を続ける。この間、メキシコのテレビシリーズに、のちのメキシコ映画界を担うことになる若手たちとともに参加していた。監督を手がけた長編「クロノス」(92)がメキシコ・アカデミー賞で9部門を受賞し、カンヌ映画祭でも高く評価されたことから国際的な注目を集めた。これにより「ミミック」(97)の監督としてハリウッドに招かれるが、デル・トロのビジョンを尊重しようとしないスタジオ側と衝突。「ミミック」完成後はメキシコに戻り、自前の映画製作会社“ザ・テキーラ・ギャング”を設立する。スペインでの次作「デビルズ・バックボーン」(01)がまたしても大成功を収めたことからハリウッド再進出を試み、アメコミの映画化「ブレイド2」(02)でハリウッドでも成功を収める。続いて、こちらもアメコミの映画化である「ヘルボーイ」(04)も興行的に成功。メキシコに戻って作った「パンズ・ラビリンス」(06)は世界中で絶賛された。【モンスターと人間を分かつもの】アルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥなどに並ぶ、“新しいメキシコ映画”作家のひとり。 デル・トロのこれまでの作品を貫くテーマは、「なにが人間を人間たらしめているのか?」「人間と怪物(幽霊)を分けるものは何なのか?」ということであり、この問いは「デビルズ・バックボーン」と「ヘルボーイ」では、はっきりとナレーションで語られる。苛烈な内戦の記憶を持つスペインを舞台にした「デビルズ・バックボーン」と「パンズ・ラビリンス」では、異形の怪物以上に残酷でおぞましい存在として人間が登場し、どちらの作品でも大人たちの闘いに巻き込まれた純粋な子供(孤児)たちの受難が描かれる。ヘルボーイもまた内面は幼い子供のままであり、それが彼とほかのコミックス・ヒーローたちとの違いだ。昆虫、時計仕かけ、暗所、怪物などにフェティシズム的な愛情を抱いていると自ら認め、自作の中にも頻繁に登場させているデル・トロは、「人間こそが、この地上に出現した最悪で最良のものだ」とも語っている。また、作品の中に教会や宗教的なシンボルを頻繁に登場させることから、カソリックの影響も強く見られ、「カソリックとして育てば、そこから抜け出すことはできない」との発言もある。デル・トロ作品においては、奇怪なモンスターや昆虫たちと対比させることで、それらを上回る残酷さを持つ人間の姿が糾弾され、同時に子供たちの純粋さと美しさもまた照らし出される。