ある都で盛大な銅像除幕式があった。紳士貴女こもごも立って祝辞を述べた後に、いざ像を覆っていた幕が引き下されると、驚くベし、この像の上には一人のみすぼらしい小男が眠っていた。で、人々の驚駭と叱声の中に、この小男は狼狽して逃げ出したのであるが、こうして宿をも失われたこの浮浪者にとっては身投げでもするより外にすることがない様に思われた。ところが、この浮浪者が、計らずも、街角で花を売る娘を見て胸を踊らせたのである。しかも、この盲目の娘は彼女に大金を恵んだ紳士が彼であると思い込んで彼の手を握っては感謝の言葉を述べるのであった。そうなっては、彼も男であった。彼は初恋に胸をときめかせ、そして働いて金を儲け彼女と交際しようと考えた。そして、まず街の清掃作業員になった。で、金が入ると、彼女の家へ堂々として紳士らしく訪問していき、いじらしい盲目の娘が、つつましく彼と話をしたり、やさしく微笑んだりするのを眺めては、思慕の情を高じていた。が、恋というものは、仲々成らぬものである。彼は職を失った。その上に娘は病気になった。大切な恋人の病を癒す大金がいる。そこで彼は賞金目当てにボクシングに飛入りした。が、所詮は素人の小男の彼だった。リング上を修羅の如くに暴れ廻りはしたが、遂には彼は手痛く叩きのめされてしまった。絶望だった。暗い夜だった。彼はトボトボと街を歩いた。すると、その彼の目の前に現われたのは、酔っ払いの百万長者だった。この金持ちは酔うと、やア親友と、叫んでは浮浪者たる彼の首っ玉にも跳びつく癖のある男で、彼も幾度かその邸宅に引っ張られて夜を明かしたことがある、が、ただ残念なことには、酔いがさめると、もう全然酔中のことは忘れているということであった。で、金の探索に困り抜いていた彼は金持ちにこの由を相談すると、そこは大金持ちでその上に酔っていたので、金持ちは大いに気前よく彼を我家に招じたうえに金1千ドル也をポンと投げ与えた。が、間の悪い時には悪いもので、ここへ強盗が押し込んで来て、そこに活劇となり金持ちは叩きのめされた。で、正気に返ると金持ちはもう先刻の親友を認識してはいない。こいつは強盗の仲間だ、というので彼は弁解も聞き入れられず、罪もないのに捕まえられてしまった。が、でも、彼は、一寸した隙に1000ドル娘に届けることだけはできた。それから年は過ぎて、無実の刑に服した彼が、また町に出て来たとき、裟婆の風は冷たく彼を吹いた。むごく、わびしい人生だった。が、その彼はふと、ある花屋の前に立つと、その店内に、いそいそと立ち働くかつての盲目の恋人を見つけた。あの1000ドルで彼女は目も見えるようになったらしい。だが、それとは知らぬ娘は、いつまでも店の前に立っている彼を見て、これはお乞食さんだと思った。だが、気立てのいい彼女は、なにがしかの金を彼に恵んでやろうと、店から出てきた。そして金を彼の手中に押し入れた。が、そうして手に触ったとき、かつての記憶が呼びかえった。あなたでしたか.....。この言葉が娘の口から漏れたときは彼も娘も、もう千万無量の思い出、じっと顔と顔とを見合わせて突っ立っていた。