【スタイリッシュな犯罪映画で紡がれる男と負け戦の美学】アメリカ、イリノイ州シカゴの生まれ。ウィスコンシン大学を経て、ロンドン・フィルム・スクールに留学し修士号を取得。1965年より英国テレビ界でドキュメンタリーやCMを作り始める。72年の帰米後は主にテレビドラマの脚本で活躍し、『刑事スタスキー&ハッチ』(75~79)ほかを手がけた。79年のテレビ映画『ジェリコ・マイル/獄中のランナー』で長編ドラマを初監督、エミー賞の脚本部門ほかの評価を得る。続いて81年に「ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー」で劇場映画に進出、これは天才的な金庫破りを主人公とした犯罪映画で、カンヌ映画祭にも出品されている。以後90年代初頭までは、ハンニバル・レクターものの初映画化である「刑事グラハム・凍りついた欲望」(86)などの小規模ジャンル映画を監督。その一方でテレビ作品の製作総指揮を担当し、特に刑事ドラマの『特捜刑事マイアミ・バイス』(84~89)で名声を高めた。映画で初の成功作とされるのは、ダニエル・デイ=ルイスを主演に迎え、製作も兼ねた開拓史劇「ラスト・オブ・モヒカン」(92)。その後も製作を兼ねつつハリウッド・メジャーと組んで「ヒート」(95)、「インサイダー」(99)、「ALI/アリ」(01)、「マイアミ・バイス」(06、シリーズ中での監督は初)などの大作・話題作を放った。また製作者としては「アビエイター」(04)、「ハンコック」(08)などを手がけ、娘アミ・カナーン・マンの監督デビュー作もプロデュースしている。【ハリウッド本流の中のジャンル派】テレビ界からハリウッドの本流に躍り出た外部流入監督のひとり。刑事ドラマのエポックメイキング『マイアミ・バイス』は、スタイリッシュな映像にヒット曲多数使用といったMTV感覚と、綿密な考証や予定調和に終わらない展開というリアリズム志向とを共存させたところに特徴があった。これはマンの監督作に一貫する特徴でもあるが、80年代の作品ではスタイリッシュな面が一部で評価されたものの、興行的成功に結びつくことはなかった。「ラスト・オブ・モヒカン」で人間ドラマを包括した叙事詩的な感性も認められ、一級監督の仲間入りを果たすと、以後はトップスター主演による中~大規模のハリウッド娯楽大作に手腕をふるう。そのおよその作品が犯罪映画であり、スタジオシステム終焉後のハリウッド本流におけるジャンル派として認知されている。その作風はしばしば“男たちの濃密なドラマをスタイリッシュな映像で撮らせたら右に出る者はいない”と紹介された。マンの映画では、単に男の闘いを叙事詩的に描くばかりでなく、終局的には負け戦に終わる哀愁も追求される。アカデミー賞ノミネートの社会派「インサイダー」や、伝記映画の「アリ」もその例外ではなく、その一コラテラルCollateral(2004)貫した美学とハードボイルドな描写力によって、監督賞の栄冠がなくともカルト的な人気を保っている。