金融業「武市産業」の社長・武市浩蔵が、神楽坂にある妾の駒代の家の風呂場で倒れ、そのまま他界した。昭和三十八年の初夏である。知らせを受けた本妻の松子と故人の妹・タキは神楽坂へ駆けつけ、武市産業専務・瀬戸重助の尻を叩き、通夜の場を強引に北沢の本宅へと移した。駒代流にいえば、松子は“かぼちゃ婆ぁ”であり、六十歳になってもバージンだというタキは“電気クラゲ”に似て薄気味の悪い存在である。裸一貫で武市産業を創った浩蔵だったが、死んで借財だけを残していった。その返済のために、渋谷のタキの家と、本宅の裏庭の一部が売却されたが、松子にとって、浩蔵が死んでからは法律が彼女に味方し、妾や義妹を退けることができたことに満足だった。しかしそんな泰平は、突然、引っ越してきたタキによって、破られた。タキは、自分にも遺産相続権があるものとして北沢の家に居坐るつもりなのだ。松子と同じく、女中の花子にとってもタキの出現は迷惑だった。花子は松子の養女となって恋仲の八百屋の御用聞き辰夫との結婚を目論んでいたのだ。松子と花子がタキの追い出しにかかっている時、今度は新橋に料理屋を開業するまでの一ヶ月の間、部屋を貸して欲しい、と駒子が飛び込んできた。腹に一物もった“三婆”が、一つ屋根の下に住むことになった。しかし、いつまで経っても出て行かないタキと駒代に業を煮やした松子は、二人から部屋代を取り、借家人を置くことにした。だが、部屋を借りに釆た山田夫婦は、タキを家主と感違いして家賃を支払った。そんな時、鳥取の家へ帰っていた重助が、娘に追い出されてころがり込んで来た。一方、部屋代の請求書をつきつけられたタキと駒代は、団結して松子に対抗するが、その最中に山田夫婦が引っ越して来て、タキが部屋代を隠匿したことがバレてしまった。そんなタキにあきれた駒代は松子の陣営へついた。“三婆”の凄まじい三つ巴の戦いは果てしなくつづく……。そして花子は松子が自分を養女にする意志がないことを知り、辰夫と結婚するために松子の許を去って行った。松子は、タキを老人ホームに入れるため、こっそり手続きをとった。タキは訪れた福祉事務所員を相手に、老人ホーム行きを拒否して暴れまくったが、心の中では迷っていた。うるさい居候が出ていくことは松子にとって嬉しいはずなのだが、反面、胸のうちでは孤独感と悲しみが充ち溢れて来た。松子は泣きながら、いつまでも四人で暮すことを提案するのだった。そして、10年後。子供を連れて武市家を訪れた辰夫、花子夫婦がみた光景は--桃惚の人となりながらも、今だにつづけられている“三婆”と重助の、奇妙な共同生活だった。折りしも街では、選挙用の宣伝カーが、“老人福祉問題”をがなりたてている……。