正保四年--徳川幕府の安泰を秘めた柳生武芸帳は、柳生・藪大納言・鍋島三家に一巻ずつ所蔵されていた。ところが鍋島家の分が鍋島家にとりつぶされた竜造寺家の遺児夕姫の手に帰し、肥前の術者山田浮月斎も多三郎、千四郎兄弟を使って、これら武芸帳を奪おうとする。そこで千四郎は江戸の柳生屋敷を、多三郎は夕姫を狙うが、彼はやがて夕姫を恋するようになった。夕姫は江戸へのぼり、藪大納言家から大久保彦左衛門の手に移った一巻をうばうため、柳生兄弟--友矩、又十郎、於季を相手に争うことになる。又十郎は夕姫に化けて大久保邸を訪れ、武芸帳を発見するが、千四郎にはばまれ、巻物は二人の手によって真二つに引き裂かれた。この頃多三郎は夕姫を恋した件で破門され、又十郎も無意味な武芸帳争奪に嫌気がさして、柳生家を後にした。一方浮月斎は、夕姫一党をたずね、力をあわせて一挙に柳生家を襲おうと計画する。期日は十五日と定められたが、それを早くも知った柳生一党は夕姫一党を急襲して大乱闘となった。その時多三郎は、馬をかってこの乱闘に加わり、夕姫を救うと役人たちの十手を逃れて、江戸から離れた渓流に達した。そこで、この武芸帳をめぐる無意味な争いをやめさせるため、自首して出ようとする多三郎を、夕姫は強くおし止め、二人は筏に乗っていずこへともなく立ち去って行った。