南方理子は、父の跡を継いで医者になるため勉強に励んでいた。そんな彼女に、戦災で失くした青山の病院を再建してやるから、と青年医師で京都に住む吉成朝巳が結婚を申込んで来ていた。だが、朝巳の弟で今は東京に養子で来ている岳二は、一途に理子を慕っていた。岳二は理子よりも年下だったが、幼い頃から仲が良かった。理子が朝巳との結婚を承諾したことを聞くと、絶望のあまり日頃彼が愛していた琵琶湖畔の小舎に姿をかくしてしまった。岳二を探しに来た理子は、彼の激しいばかりの慕情に胸うたれた。この二人の愛を理解した京都の叔父佐武郎は朝巳との結婚の話を取止め二人を励ますのだった。岳二との倖せを築くために、彼女は病院再建へと奔走した。彼女がアルバイトで注射をうちに通っていた、政界の黒幕花屋京四郎は、彼女の清純さに打たれ何かと援助を与えた京四郎の紹介で精神病院の院長滝川も彼女の計画に協力することになったが、滝川は最初から色と欲にからまってのことだった。その滝川の計りで、彼女は岩本建設の御曹司岩次郎に引会わされた。岩次郎は彼女の美しさに心を奪われ経済面を度外視して病院建設に協力するのだった。この理子の多忙な仕事ぶりに、岳二は幼い嫉妬めいた日々を送っていた。病院の骨組が青山に出来上った日、岩次郎は彼女を箱根に誘ったが、彼女はそれを断り切れなかった。表面楽しそうに箱根へ行く理子と岩次郎の姿に、岳二は耐えられず愛用のジャガーで二人を追った。しかし岩次郎と仲の良い理子をみると岳二は絶望のあまり、自らか、誤ってか車諸共断崖から転落してその生命を断ってしまった。一方、この箱根で岩次郎は理子が自分と結婚の意志がないのを知ると怒って彼女の頬を打った。頼みの融資も滝川の誘惑を彼女がはねつけたことから断たれてしまった。しかし理子への援助資金は滝川のふところからではなく、京四郎から出ていたのだ。全ての解決は京四郎の愛人お園によってなされた。岳二の死を知らぬ理子は喜びあふれて彼のもとに急いだ。しかし、現実は彼女を奈落の底に突き落した。岳二を殺したのは理子だ、という周囲の激しい非難に、失意の理子は悄然と京都に向った。そして傷心の胸を抱き今は亡き岳二の愛した湖畔の小舎に立った。折からの満然たる雨の中から、岳二が口ずさんでいた「モンマルトルの丘」の口笛が、涙に濡れる理子の心を哀しく包んでいった。