復員して来たが、帰るべき家もなければ親兄弟もいない、何のアテもない島村修作であった。彼は下関駅構内にぼんやりとたたずんでいる。浮浪児達が入って来る列車をめがけて何かにありつこうと、狼群のように襲いかかる。だがこれは復員列車で獲ものにならなかった。浮浪児達の失望した顔、その顔に並んで一人の若い女が、これもぼけたように立っている。行くアテを見失ってすっかり考え込んでいる引揚者の夏木弓子である。彼女も修作も浮浪児達も皆同じ様な立場であった。だから気持ちにもお互いに通じ合うものがあった。何となく話し合ってみた。弓子は最後の頼みの知人を訪ねて行くといって去った。修作と浮浪児達はたちまち仲良くなった。普公、義坊、豊、丹波、寛市、源之介、弘之、清の八人組、ところがこの浮浪児達を操っている男があった。図星の政という一本足の暴れ者、彼は浮浪児を手下に使い、コソどろ、かっ払いをやらせてそのピンをはねているのである。救われぬ環境に落ちている浮浪児達であった。修作も何かして食わねばならぬ、彼は別にアテもなく流浪を始める。荷役をやったり、薪を割ったり、塩焼に従事したり、それが浮浪児達の放浪としばしば一緒に成った。例の八人組の子供達に修作は特に教えたわけじゃなかったが、子供達は働かねば食えぬという事を覚えた。修作の実践が子供心にも影響を及ぼさぬはずはなかった。彼等は次第に修作と離れ難い親密の度を増して行く。彼等を支配する図星の政は、ヘタな事をしやがると、修作をつけねらうが、反って修作にのされる。彼も始めて目覚める。今は楽しい修作達の旅であった。山陽線を海岸沿いに、歩いたり汽車に乗ったり、野宿をしたり広島の近くまで来た時豊は母を恋いながら病気になって死んだ。修作達は、広島で弓子に会った。彼女は愛情を求めてやはりさすらいの旅をしていたのである。今はすっかり心のつながれた、修作と、子供達とそれから弓子であった。