駅にぴったりと張り付いたように建つKARASSというカフェでバイトしている20歳の有希が暮らす下北沢という町は、老若男女や古い物と新しい物がざわざわとひしめき合って共存する不思議な街だ。カフェの常連客・九四郎は、ザ・スズナリという劇場で十年以上も定期芝居を続ける俺言座の座長兼看板役者で、カフェのママ・陽子とは古い付き合いである。彼は最近、別れた女房・福子と再会を果たした。有希の叔母のフジ子さんは、ピアノを弾きながら19歳にもなる猫と一緒に暮らしている。アクセサリー店でバイトする美亜は、昔つきあっていた人気歌手・有吉のヒットナンバーを作曲した印税で新車を買った。酒屋の跡継ぎの高藤は骨董屋の未亡人・静子さんに片想い中で、タウンホールで掃除のアルバイトをしている林は絵の上手な小学生・アキちゃんの目に夢中。DJになりたい章介は実家の喫茶店の跡を継ぐかで父親ともめていて、謎の男・石田は私服刑事に追われていた。また、有希の弟は仲間と映画作りに熱中しており、有希の彼氏である達也はカメラマンになるという夢を持っている。だが、そんな達也に年上の恋人がいたことが発覚した。有希は、達也との関係を見直す為、そして自分自身の成長の為、少しの間、下北沢のぬるま湯的な暖かさから離れて暮らすことを決意し、ひとり、愛する街を後にするのであった…。