長崎生まれの団塊世代、岡野ゆういち(岩松了)は、漫画を描いたり音楽活動をしたりと趣味にうつつを抜かし、仕事に身が入らないダメサラリーマン。小さいたまねぎ“ペコロス”に似たハゲ頭のゆういちは、今日もライヴハウスでオリジナルソングを歌い上げて悦に入っている。そんなゆういちの母・みつえ(赤木春恵)の認知症が始まったのは、夫のさとるが亡くなった頃からだった。それから10年、ある時はさとるのために酒を買いに出たところを孫のまさき(大和田健介)に見つけられて連れ戻され、またある時はゆういちが帰ってくるのを駐車場で待ち続けて危うく轢かれそうになった。さらに、箪笥の引き出しから汚れた下着が大量に出てきたこともある。ケアマネージャーに勧められたゆういちは、悩みながらも、みつえを介護施設に預けることにする。そこは老人たちが皆で歌を合唱するような明るい雰囲気のグループホームだった。女学生時代に戻って恋をしているらしいまつ、誰にでもアメをねだるユリ、隙あらば美人介護士の胸を揉む洋次郎など、個性豊かな面々がみつえを歓迎する。しかし、みつえは「“ふせ”(当て布をして繕うこと)ばせんといかん」と部屋にこもり、他の人の目には見えない縫い物をし続けるのだった。みつえは10人きょうだいの長女として育った。畑仕事でボロボロになった弟や妹たちの服を毎日縫うのがみつえの仕事。結婚後もさとるが給料の全てを酒に使ってしまい、さとるの背広やゆういちたち子供の服は“ふせ”だらけとなっていた。そんな中、みつえの記憶は少しずつ過去へ遡っていく。ある日、みつえは、さとるや幼なじみのちえこ、8歳で亡くなった妹のたかよが会いに来たとゆういちに語る。ゆういちは「ボケるとも悪かことばかりじゃなかかもな」と思い始めるのだった……。