夏の終わり、初めて合作する絵本の打ち合わせのために、絵本作家の田島征三が双子の兄・田島征彦のアトリエを訪ねる。絵本は田舎の村で過ごした、ふたりの夢のような少年時代の物語だった。昭和23年、高知県のある田舎村、絵が好きで悪戯も好きな双子の征三と征彦は、教師をしている優しい母とめったに家に帰らない父、思春期の姉に囲まれ、自然の中を駆け回って暮らしていた。勉強もそっちのけでナマズを捕まえ、鳥と格闘する。双子であることを利用して学校の居残りを抜け出したり、よその畑を荒らしたりの悪戯ぶりで、叱られてはかんしゃくを起こす我の強さもあった。自然は彼らを包み込み、川の中からは「相撲取ろう」という声が呼びかけ、村の守護神のような不思議な3人の老婆が大木の枝に座って、ふたりの行いをじっと見守る。喧嘩をしてさえ鏡に向かい合ったようにいつも一緒のふたりだったが、征彦が扁桃腺の手術で入院したのと、この間、征三が錐で手を突き抜く怪我をしたのはさすがに別々だった。ふたりはボロを着た転校生のセンジと仲良くなるが、3人で校長に悪戯をしてもなぜかセンジだけが殴られるようなことがあった。センジを家に呼んでも、母親さえもがなぜか彼を家に上げるのを拒むのだ。センジは以来、姿を消してしまった。征三は家が貧しい少女・ハツミと、どことなく気持ちを通わせていたが、つい周りの同級生と一緒に彼女をからかってしまい、ひどく傷つけたことがある。このあと征三もまた扁桃腺の手術をすることになるが、謎の老婆たちは陰ながらに「目を狙ったのに」と呟いて風と共に舞い上がっていったものだ。そんな故郷や彼らとの想い出も、すっかり大人に成長した今では、絵本作家になったふたりが描く絵の中の村だけにしかない。