2003年春、イラク北部クルディスタン地方の小さな村。イラン・イラク戦争、湾岸戦争などで荒廃したこの地方に、再び新たな戦争が始まろうとしている。大人たちはアメリカ軍の動向を知ろうと、衛星放送を受信するためのパラボラ・アンテナを利発な孤児の少年サテライト(ソラン・エブラヒム)に買いに行かせる。彼は近在の村々を巡る便利屋として大人たちに重宝されている。またこの村では、子どもたちが地雷を掘り出して国連の出先機関に買ってもらっている。サテライトはこの仕事の元締めもしていて、掘り出した地雷の値段交渉から、地雷除去を依頼する地主たちとの交渉までを一手に引き受けて、子どもたちから慕われている、この危険な仕事で子どもたちが得るわずかな金は、大切な現金収入なのだ。サテライトは村のモスクにパラボラ・アンテナを設置し、衛星放送を受信するが、肝心のニュースは英語放送で誰も理解できない。開戦の情報はどうやったら得ることができるのか…。ある日サテライトは、ハラブジャから来たという、赤ん坊を連れた難民の少女に恋をする。かたくなに心を閉ざす彼女には、両腕のない兄がいた。米軍の侵攻が刻々と迫る中、サテライトは彼が予知能力を持っていることに気付く…。サテライトは、アメリカびいきで、掘り出す地雷もアメリカ製のものと決めている。そしてアメリカ軍の侵攻にもかすかな期待を抱く。しかし、村の世話役エスマイルや青空学校の教師は、故郷が戦場になることの意味を身にしみて知っていて、サテライトに危うさを感じている、そんなことは意に介さず、嬉々として銃を買い、淡い恋もするサテライトだが、終幕にひとつの破局を経験することで、心に大きな傷を受け、彼の少年時代は終焉する。茫然と道端に立つサテライトの前を、待望していた米軍の車列が行き過ぎるが、彼はただ虚ろな視線を送るだけだった。