【テレビドキュメンタリーから、世界的映画監督へ】東京都生まれ。1987年に早稲田大学第一文学部を卒業し、製作会社テレビマンユニオンに参加、ドキュメンタリー番組の演出を多数手がける。高級官僚の自殺を追った『しかし…福祉切り捨ての時代に』は、91年のギャラクシー賞優秀作品賞など数々の賞を得た。映画監督デビューは95年。テレビマンユニオンが映画製作に乗り出し、その第1回作品「幻の光」を手がける。初監督の本作は第52回ヴェネチア映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。続く99年の第2作「ワンダフルライフ」ではナント三大陸映画祭でグランプリを受賞、2001年「DISTANCE/ディスタンス」はカンヌ映画祭出品と、作品発表ごとに世界的な注目を集める作家となる。およそは日本国内よりも海外で先に評価され、日本に逆輸入されたかたち。04年には「誰も知らない」に主演した柳楽優弥がカンヌ国際映画祭史上最年少で主演男優賞を受賞。カンヌで男優賞を受賞すること自体が日本人初だったため、国内外で大きなニュースとなり、映画ファンだけでなく一般にも広くその名を知らしめた。こうした評価が高まっていく一方で、後進の育成にも力を入れ、自作に出演した伊勢谷友介の初監督作品「カクト」や、同じく助監督をつとめた西川美和のデビュー作「蛇イチゴ」などをプロデュース。その後も、06年の「花よりもなほ」や08年の「歩いても歩いても」、09年の「空気人形」と、1~2年に1作のペースで着実に良質の作品を送り出している。【人間を見つめる真摯な眼差し】作風としては、ドキュメンタリー畑の出身らしく、そこで培ったものが顕著に現われる。映像は、役者の芝居をカメラが追うというよりも、目の前で起きる出来事を捉える記録映像的な作りが特徴。物語では生と死を対比させ、どんな境遇でも前向きに生きようとする人々の姿を主に描いた。「幻の光」では夫を自殺で失った女性がトラウマを乗り越え、「ワンダフルライフ」では死者ですら前向きに旅立とうとする。実際の事件をモデルに、センセーショナルな題材を扱う場合もスタンスは変わらない。カルト教団による大量無差別殺人事件をモチーフにした「DISTANCE/ディスタンス」、母に捨てられた子供たちの姿を描く「誰も知らない」……そこに生きる人間の姿を静謐に捉える姿勢は常に保たれた。それまではこうした現代社会に密接する現在進行形のドラマ作りを行なってきたが、人情時代劇の「花よりもなほ」や、家族劇の「歩いても 歩いても」のように、近年は日本映画の良質な伝統を受け継ぎつつ広汎な視点から人間を俯瞰する姿勢も見せている。