【多ジャンル、自由なスタイルを求めるイギリスの先鋭】イギリス、ブラックバーンの生まれ。オックスフォード大学で英文学を専攻後、ブリストル大学で映画製作を学びテレビ界へ。テムズ・テレビジョンで編集に携わり、イングマール・ベルイマンに関するドキュメンタリーを製作。その後、ドラマ『心理探偵フィッツ』(93)、ロディ・ドイル脚本の4話から成るシリーズ『Family』(94)などの演出を手がけ、後者は数々の賞に輝いた。そこで組んだプロデューサーであるアンドリュー・イートンとレヴォリューション・フィルムズを設立。映画業界への足場を築く。同社でテレビ用に製作されたロバート・カーライル主演の人間ドラマ「GO NOW」(95)は、エジンバラ映画祭で喝采を浴びた。劇場映画としてのデビュー作は、同年の「バタフライ・キス」。アマンダ・プラマー主演の連続殺人犯を描くロードムービーで、ベルリン映画祭に出品。2作目は文豪トマス・ハーディの原作をケイト・ウィンスレット、クリストファー・エクルストン主演で映画化した「日蔭のふたり」(96)で、こちらは重量感のある古典悲劇に仕上がっており、それまでのフットワーク軽やかなスタイルとはまったく異なるテイストを見せた。「ウェルカム・トゥ・サラエボ」(97)ではボスニア戦争を題材にした政治ドラマ、「アイ・ウォント・ユー」(98)では情感溢れるラブストーリー、「いつまでも二人で」(99)ではライトなラブコメディと、多ジャンルの作品を発表。続く「ひかりのまち」(99)で手持ちカメラを用いて、ロンドンに暮らす人々の日常を捉えた群像劇を撮る。この作品以降、ウィンターボトム作品において手持ちカメラは重要な役割を担っていった。【手持ちカメラによるリアリティの重視】以後もウィンターボトムはさまざまなジャンルに挑み続ける。「24アワー・パーティ・ピープル」(02)は伝説のマンチェスター・ムーブメントを放った若者たちの栄光と挫折を描く音楽映画、「イン・ディス・ワールド」(02)はパキスタンの難民キャンプからロンドンへの長旅に臨む少年たちを追いかけたロードムービー、「CODE46」(03)は近未来を舞台にしたSFラブストーリー、「9Songs/ナイン・ソングス」(04)は男女ライベートな性愛と、いずれも手持ちカメラによるリアリティを駆使して描いた。中でも「イン・ディス・ワールド」は、ベルリン映画祭の金熊賞ほか3賞に輝いている。その後、日本で公開された「グアンタナモ、僕達が見た真実」(06)、アンジェリーナ・ジョリー主演の「マイティ・ハート/愛と絆」(07)は、いずれも政治色の強い社会派映画だが、「トリストラム・シャンディの生涯と意見」(05・日本未公開)など、実験的かつユーモラスなジャンルに縛られない作品も一方で撮り続けている。