【エロスと青春にこだわり続けるピンク映画出身の俊英】福島県郡山市の生まれ。大学進学のため上京するが中退し、アテネフランセの映画技術美学講座に通った。1979年頃からフリーの助監督としてピンク映画の現場に参加し、中村幻児らに師事。82年の「性虐!女を暴く」で監督デビュー。83年の薔薇族映画「ぼくらの時代」に始まる「ぼくら」三部作で注目を集め、ピンク映画とにっかつロマンポルノを往来しながら、青春コメディからシリアスなサスペンスまで多彩な成人映画群を手がけた。89年の「童貞物語4・ボクもスキーに連れてって」で初の一般映画を監督。94年の青春映画「800/TWO LAP RUNNERS」で文化庁優秀映画賞、文部大臣芸術選奨新人賞などを獲得する高い評価を受けた。以後もインディペンデントなエロチック・ムービーで力を発揮し、フェティシズムにこだわった「不貞の季節」(00)、「理髪店主のかなしみ」(02)などを経て、03年、寺島しのぶを主役に迎えた「ヴァイブレータ」がヨコハマ映画祭ベスト・ワンなど数々の映画賞に輝く。近年は「機関車先生」(04)、「きみの友だち」(08)、「余命1ヶ月の花嫁」(09)など確かな演出力でメジャー規模の感動作を手がける一方、「ラマン」(05)、「やわらかい生活」(06)、「M」(07)など男女の情愛をテーマにした小品も並行して発表している。初の時代劇大作「雷桜」が10年秋公開。【空間造形の冴えと全身の芝居】80年代中盤からのピンク映画隆盛期に、低予算の成人映画で発想力と演出力を鍛え、その勢いをかって一般映画にシフトしたピンク出身監督。都会的な風景を切り取る空間造形のセンスから“シティ派ピンク”との異名もとった。メジャー作品を手がけるようになった今も、エロスと裸は依然として廣木にとっての重要なモチーフであり続け、仮に裸が登場しない作品でも、廣木が描く人間の“情”にはそこはかとないエロスが絶えずにじんでいる。反対にエロスや裸がモチーフの場合でも、廣木作品には常に“青春”の普遍性が根底に漂う。長く“エロティシズム”あるいは“女性映画”の作家と見られてきた廣木だが、成人映画時代から青春映画の秀作は多く、世評も高い「800」「きみの友だち」や、WOWOW製作のドラマ『4TEEN』(04)のようなストレートな青春物語で実力を発揮するのは当然とも言える。一見、役者を突き放したようなロングショットの長回しを好み、顔のアップをあまり撮らないことも特徴だったが、その実、役者が全身で表現する芝居を絶妙のフレーミングで画にしようとすることの現れでもある。大杉漣、田口トモロヲ、大森南朋など常連俳優を好んで起用する一方、積極的に新人俳優も発掘。ミュージシャンとの交友も多く、自作の音楽に対するこだわりの強さでも知られる。