【内在する他者のドラマを骨太に描く】長野県で、在日朝鮮人の父と日本人の母の間に生まれる。朝鮮語読みはチェ・ヤンイル。朝鮮高校、写真専門学校(中退)を経て照明助手として映画界入り。1972年に助監督となり、大島渚の「愛のコリーダ」では26歳(撮影時)でチーフ助監督に抜擢され業界に勇名を馳せた。81年にテレビ映画で監督デビュー、83年に劇場映画監督デビューを果たす。94年、朝鮮籍から韓国籍に変更、96年に助成を受けつつ1年間の韓国留学を経験した。「御法度」の近藤勇役など映画出演もこなす。チーフ助監督としては、村川透作品など多くのハードボイルド映画につく。監督第1作「十階のモスキート」は、内田裕也企画・脚本・主演、現職警官の転落を描いた実録犯罪映画で、小規模公開ながらキネマ旬報ベスト・テン入りを果たす好評価を得た。「友よ、静かに瞑れ」(85)ほかの犯罪活劇や「Aサインデイズ」(89)などを手がけ、93年には衛星放送で製作・放映の短編連作ドラマを、劇映画「月はどっちに出ている」として進展させ、キネ旬ベスト・テン1位ほか内外で50余りの映画賞を獲得した。松竹映画「マークスの山」(95)を終え韓国留学を経てからは、「犬、走る/DOGRACE」(98)、「刑務所の中」(02)、「血と骨」(04)が立て続けにキネ旬ベスト・テン入り、後者2本は共に1位を争う高い評価で、「血と骨」は日本アカデミー賞の監督・主演男優・主演女優の各最優秀賞を受賞する。07年には韓国映画の「ス」を監督、韓国で一般公開(日本では映画祭上映)された。【視線はアジアに広がる】表面的に作品歴は大きく二期に区分される。前期が、角川映画を中心とした娯楽活劇の時期で、北方謙三原作の人気小説をスタイリッシュな映像で描いた「友よ、静かに瞑れ」「黒いドレスの女」などがハードボイルド作家の印象を強めた。在日朝鮮人を主人公に据えた「月はどっちに出ている」が次期への転換点。「血と骨」も含めてその視線は社会派には向かわず、日本社会に生きる一個の人間ドラマを追求する。在日を日本が内部に抱える他者とするなら、ほかで扱った犯罪者、アウトロー、ガイジン、全共闘闘士、服役者、盲導犬なども社会が抱える他者として捉え直すことが出来、その点でモチーフは全期を通して一貫する。沖縄を舞台とした「Aサインデイズ」「豚の報い」(99)等は逆に日本の異社会に生きる個人を追うもので、これらを統合し、アジアという社会に生きる人間に視線を拡張させてきた、とみなされている。2022年11月27日、闘病中の膀胱がんのため、東京都内の自宅で逝去。享年73歳。