若いサラリーマン葉室夫婦は方々から借金して二階家をたてた。二階を貸して返済しようという計画だが、今いる小泉夫婦は賄付の下宿代を二カ月ためているので、気弱な葉室夫婦の間では時々波風が立った。やっとの思いで催促すると目下失業中という返事に、正巳は止むなく勤めている会社の守衛に小泉を推薦した。暫くたち、葉室家には、豊橋に住んでいる兄鉄平と喧嘩して出てきた、母のとみが泊まった。小泉夫妻と親しくなったとみは、二階に遊びに行くので正巳には面白くなかった。折角世話した守衛の勤めを怠けているときいた時、彼の忍耐心の限度が来た。立退を迫ると小泉達の態度がガラッと変った。彼らは下宿荒しの常習犯だったのだ。下宿代を踏み倒して小泉達が漸く引越し、とみが帰った時葉室家には平和が訪れた。次の間借人来島夫婦は評論家だというが、銭湯が嫌いだから風呂場を作ってくれと十万円渡す程で、正巳達とはケタ違いの豪華さだ。風呂場が出来た日、とみが又飛び出してきた。正巳兄弟が集って母の身のふり方について家族会議が開かれたが結論は仲々出ず、とみは鉄平に引取られた。だが家を建てる時借りた二十万円の返済を迫られた正巳は、やむなく来島に借りて返済した。その直後、正巳は週刊誌を見て来島が五百万円を拐帯して逃亡した犯人と知った。正巳達は煩悶した。警察に訴えるにしても三十万円は返さねばならず知らぬ顔をしているのも口止料を貰ったようで気が咎めた。クリスマスの晩正巳達を来島夫婦は招待して幸せそうに踊りまわった。正巳達は複雑な気持でみつめた。翌日彼らは自首した。貸した金は黙っているといったが二人は何か気が晴れなかった。「自分達の家を建ててみて、楽しいことは余りなかったわね」正巳は頷いた。しかし、二人は二階をまた貸さなくてはならないだろう。「二階のことで喧嘩するのは止めよう」正巳のことばに明子は頷いた。