人間生きる楽しみいうたら食うことと、これや。こっちゃの方があかんようになったらもう終りやで。スブやんこと緒方義元は、いつも口ぐせのようにこうつぶやくと、エロと名のつくもの総てを網羅して提供することに夢を抱いている。スブやんは関西のある寺に生れたが、ナマグサ坊主の父親とアバズレ芸者の義母の手で育てられた。高校を卒えて大阪へ出て来たスブやんは、サラリーマンとなったが、ふとしたことからエロ事師の仲間入りをしたのがもとで、この家業で一家を支えることになった。彼の一家とは彼が下宿をしていた松田理髪店の女王人で未亡人の春と彼女の二人の子供、予備校通いの幸一と中学三年生の恵子である。スブやんは春の黒髪と豊満な肉体に魅かれてこうなったのだが、春にとっては思春期の娘をもって、スブやんを間に三角関係めいたもやもやが家を覆い、気持がいらつくばかりだ。そして、歳末も近づいた頃、遂に春は心蔵病で倒れた。スブやんは病人の妻と二人の子供をかかえて、動くこととなった。仲間の伴的は暴力団との提携をすすめたが、スブやんは質の低下を恐れて話を断わり、8ミリエロ映画製作に専念した。その映画とは実の親が娘を犯すといったもので、さすがのスブやんも考え込んでしまった。帰宅するとスブやんは恵子の様子がきがかりで仕方がなかった。その夜、スブやんはニュータイプの器具から足がついて、警官に拉致された。その頃、春の病状は思わしくなかった。幸一のバリ雑言の中で、春は、スブやんの仕事を信じていた。出所したスブやんにまた生気がよみがえってきた。数日後、酔いつぶれて帰って来た恵子に、スブやんはいとしさがこみあげて、ついに一線を越えてしまった。事の成りゆきを知った幸一は家出した。「緒方はんいたずらしはるねん」恵子は母にこうもらしたが、死期の迫った春には、返す言葉もなかった。四月春はスブやんの子供を妊ごもったまま、恵子の写真を針でつきながら死んでいった。春と恵子を愛し、スブやんは幸一をも案じながら年をとっていった。それから五年、美容師に成長した恵子の店の裏の川で船上生活をする白髪のスブやんは、エロ事師一世一代の仕事として、恵子をモデルにした精巧なダッチワイフの制作に励んでいた。ある夜、船を繋いでいた縄が切れたのも知らず、一心不乱に人形に植毛するスブやんの姿があった。船はゆらりゆらりと大海原へ流されていくのだった。