恩田圭太は阪神大震災のニュースを見ながら、ふと自分の少年時代を思い出していた。昭和20年、淡路島に駐在として勤務していた恩田幸吉の一家は、戦地で戦死した長男・忠夫の遺骨を故郷の宮崎の寺に納めるために旅行に出かけた。妻のふじと3人の子供を伴ったこの家族旅行は、敗戦の混乱期にあっては無謀とも思えたが、幸吉は家族そろって出かけることにこだわる。三男の圭太は、そんな父の言いつけで兄の骨壷を現地まで運ぶことになった。別府へ渡る船を待つために一泊した神戸の街で、父に反発して途中で家族と離れる計画を立てていた次男の光司は、空襲で家族を失い、九州の親戚の家へ行くところだという美少女・雪子に出会う。一目で彼女に惚れてしまった光司は、彼女を親戚の家まで送り届けることを決意した。大混雑の別府航路へ乗り込んだ恩田一家は、ようやく確保した甲板の一角で一夜を明かすことになる。その夜、気っ風のいい闇屋の鳥打ちさんが音頭をとり、甲板はちょっとした宴会になっていた。ハーモニカを演奏する復員兵や巡回の映画弁士、別府で芸者になるという小町さん、校長先生、曲芸のおじさんらと、恩田一家は楽しいひと時を過ごす。別府に着いた幸吉は、どうしても雪子を送り届けたいという光司に、翌朝までに戻ってくることを条件にそれを許した。光司の帰りを待つ別府での一日、圭太は鳥打ちさんを地元のヤクザから助けた父の強さにひたすら感動を覚える。翌朝、約束通り光司は戻ってきたが、ギリギリのところで汽車の時間には間に合わなかった。最後の汽車の旅を終え、恩田一家は無事に故郷の駅に到着する。しかしその時、圭太がホームから大切な骨壷を落としてしまった。ところが、あんなに大切に運んできた壷から出てきたのは兄の遺骨ではなく、歯ブラシだったのである。そして現在、震災後の復興を遂げようとしている神戸の街を訪れた圭太は、父親が強制したあの旅行が、家族の絆を再確認するためのものであったことを実感していた。