“お名前は?”、“覚えていません”。バスの中で目覚めた男は、記憶を失っていた。覚えているのは、リンゴが好きなことだけ。世界では、記憶喪失を引き起こす奇病が蔓延し、治療として“新しい自分”と呼ばれる回復プログラムが行われていた。それは、毎日送られてくるカセットテープに吹き込まれた様々なミッションをこなしていくというもの。自転車に乗る、仮装パーティーで友達を作る、ホラー映画を見る……。そして、その新たな経験をポラロイドに記録する。様々なミッションをこなしていたある日、男は同じくプログラムに参加する女と出会い、親しくなっていく。しかし、“新しい日常”に慣れてきた頃、男は忘れたはずの以前住んでいた番地をふと口にする……。“哀しい記憶だけ失うことはできませんか?”。口数の少ない男が治療を通して、心に宿した本当の思いとは……。