目明しとめくら

お祭りそのものが映るわけではない．その予感と余韻があり，猿回し（笑福亭仁鶴 ）や夫婦漫才（正司敏江・玲児）ら，旅芸人たちが現れ，場や画面を賑わしている．そしてどこからともなく祭囃子が聞こえ，「口演」として玉川勝太郎の浪曲が挿入され，雰囲気が醸されている．
市（勝新太郎）は風に吹かれて舞う枯れ葉に導かれるようにして，ヨシ原に侵入し，そのままお産に立ち会い，赤子を取り上げる．こうした誕生のシーンとともに，市に向かっていつも石を投げてくる「坊や」（岡本健）が現れ，市の精神的な聖性が示される．坊やの父の佐太郎（明石勤）とその妹のお八重（大谷直子）が物語をなし， 目明しの藤兵衛（森繁久彌） とその息子の清次（酒井修）という筋がある．父が引っ叩くと息子は滂沱といえるほどに落涙している．息子の清次は殴られて喜んでいるらしい．その敵役として鉄五郎（三國連太郎）が駕籠に乗って，舞台となる北関東の宿場にやってくる．鉄五郎の子分たち（石橋蓮司，蟹江敬三）も悪い面構えをしている．剣豪の相良伝十郎（高橋悦史）も50両を求めてやってきて，市と路上ですれ違いざま，いきなり斬り合う．
市の人相書きが物語の中にたびたびひらひらと現れるアイテムとなる．市の首に二方向から縄が掛けられ，引き回され，いじめられたかと思えば，鉄五郎の喉元に市の仕込みが突きつけられ，しっかりと脅される．こうしたやり取りもやがて終盤のチャンバラに収束されていく．祭りの余韻を中，ダルマや獅子舞の中に市は身を包み，隠す．舞台の上には油が撒かれ，市はその上で滑りながらも立ち回る．そして油は燃えなければならない．今度は炎に身を包みながらも，鉄五郎の方へと近づいていく．
例の如く賭場の場面もあり，女性（しめぎしがこ）が丁半の賽を振る．彼女の口に指を突っ込み，サイコロを探す市は一体何者だというのか．