喧騒一式と操縦席から眺めるスクリーン

機内の操縦室と客室が主に見えてくる．しかし，それだけでは飛行機が飛び，離陸し，着陸したことにはならない．そのため飛行している様子が別の飛行機から撮っただろうと思われる映像と交互に流されていく．管制塔や別の空軍ヘリや小型機の内部，そして空港が映されないわけではない．が，全ては，この不測の事態に巻き込まれたジャンボ機が無事に着陸できるかどうかにかかってくる．
70年代の離着陸事情が乗客の心理を揺さぶっている．ジャンボ機はそれでも離陸し，7000フィートまで，そしてさらに上空へと飛び上がっていく．409便という名がある．無線では，何度もこの便名がコールされる．自動操縦が可能になりつつあっても，人間が操縦席に座って，機器を操作しないわけにいかない．そうして人物が見えている．別れ話が冒頭に示され，終盤にはこの二人の恋愛の行方もある結果に到達しようとする．女性はナンシー（カレン・ブラック）で，男性はアラン・マードック（チャールトン・ヘストン）である．雨が降っているところにも予感がある．二人のシスター，ギターを抱えた女の子．小型犬を持ち込んだ婦人など，さまざまな乗客にもどことなく不安がよぎっており，パニックへの序曲が示されている．しかし，乗客は客室乗務員たちの奮闘もあって，大してパニックにはならない．それぞれがこのトラブルに独自の対応しており，密室における集団の振る舞いとして，この社会の一定の成熟と成果もやや誇張されている．機内で見られていた映画が切れてしまう．
この航空会社のパトローニ副社長（ジョージ・ケネディ）の妻子も問題の機に乗っている．操縦室には穴が空き，なんだかドタバタとしており，操縦士たちはしんだか弱ったかして操縦できず，ナンシーが操縦桿を握り，計器を操作し，頑張ってみる．それも遠隔操作であって，マードックに無線で操られている．このいかんともしがたい距離がどのように埋められるかも見どころになる．マスコミが空港に駆けつけて，邪魔なような，それでも何かを伝えたいと中継を始めている．着陸した機体から滑り台に乗って，次々と飛び出してくる．こうした喧騒一式は，映画館に閉じ込められた観客の気分と並行している．操縦席から見える景観は一種の映画でもある．そこに空いた穴から現実世界が恐怖として，希望として入り込んでくる．