彩子は芦屋に住んでいた。彼女の夫・門田礼一郎は、学位をとるために京都の大学の内科で研究中だった。ある日、少女を連れた若い女が彩子に面会を求めてきた。「私が産んだこの子、門田さんの子」というなり少女を置去りにした。彩子は離婚を決意した。入婿の礼一郎は「君の気持が直るまでいつまでも待つ」と言った。少女・薔子を彩子が育てることになった。そんなある日、従妹みどりの夫・三杉穰介が訪れてきた。彼はみどりと愛情のない形だけの生活を送っていた。やがて、彩子は穰介の虜となった。二人は世間の人を一生だまし通そうと誓い合った。そして、八年の歳月が流れた。穰介と彩子は背徳のかげにおびえながら情事を続けていた。みどりは、そんな情事を知ってか知らずか、いろいろな男との乱行に憂身をやつしていた。門田病院の院長となった礼一郎は、ある日院内廊下で彩子を見かけた。みどりの病気見舞に来ていたのだ。門田は再婚を願ったが、彩子は冷たかった。やがて、門田の結婚を耳にした。彼女は心底は門田が好きだったのだ。彩子は服毒した。彩子の日記を読んで、薔子は大人の世界の、淋しく、悲しく、恐いことを知った。穰介と彩子の情事を知っていたみどりは、穰介と別れた。セッターを走らせ、初冬の天城の間道を行く穰介も、今は孤独であった。