目黒の高級住宅街で殺人事件が起った。被害者は城南弁護士会会長宗方治正の妻靖江で、発見者は夜間学校から帰宅した女中のきよだ。捜査一課の厳重な警戒網が布かれた結果、前科四犯脇田が現場附近の不審尋問に引っかかり、宗方邸へ強盗に押し入ったことを自供した。事件担当検事落合の尋問に脇田は殺人を自白した。死刑廃止論者の宗方は、助手の浜野とともに脇田の弁護をかってでた。浜野は新進気鋭の弁護士で学生時代から宗方夫妻の世話をうけていた。この浜野と靖江の間には、彼が書生として住みこんでいた頃から関係があった。しかし、その浜野には、製鋼会社会長村松の娘由紀との縁談が起った。嫉妬に狂った靖江は由紀に二人の関係を告げると言い出したため、浜野は夢中で靖江の首をしめたのだった。浜野は脇田が捕まってはじめはよろこんだが、日がたつにつれて良心の呵責に苦しんだ。果ては、落合に必要以上に脇田の無罪を主張した。落合は浜野の妙にからんだ言葉に疑問を持ち、極秘裡に補充捜査をすることになった。その間、脇田は法廷で死刑の論告を言い渡されていた。そんな頃、浜野が真犯人であるという証拠物件の数々が捜査一課に集った。その証拠の前に浜野は、殺人事件を自白した。落合のメンツを捨てた再調査の、勇気と信念に対して、マスコミは一斉に拍手を送った。ところが石川公一という一人の見知らぬ男からの手紙によって、事件はまたもや意外なところに波及した。九時二十八分に電話したとき話中であったため、電話局で調べてもらったところ、女の声で応答があったというのである。浜野は絞殺して九時には宗方邸を出ているのである。失神状態を死んだと断定して逃げたのであった。脇田はその後に押し入り、さわがれて殺したのであった。検察庁はマスコミに徹底的に叩かれた。落合は宮崎に左遷されることになった。