兵学校から南海の空へ、そして今生きのびて故国の土を踏んだ礼吉がただ一つ思いしめて来たのは最愛の人道子だった。風の便りに彼女は夫と死に別れ上京しているとは聞いていたが。礼吉は上京して書籍ブローカーの弟洋のアパートへ身を寄せ、戦友山路の世話で洋妾の恋文代筆業をしながら、道子の行方を求めた。五年の歳月を一瞬にかけた日はとうとうやって来た。道子が彼の許へ他のパンパンと同じ様に恋文の代筆を依頼に来たのである。清純な道子の姿を思い抱いていた礼吉は、眼前の道子についきつい言葉を言い放った。それからの礼吉は道子への愛と憎しみに悶える泥酔の日々が続いた。兄の気持をうすうす知った洋は山路に相談して道子に会った。夫の戦死後、継母の家に居たたまれなかった彼女は、横浜の進駐軍関係に勤める中、孤独の淋しさから親切な外国士官と生活を共にするようになったが、所謂パンパンの様な荒んだ生活をしていたわけではなく、今はその士官とも別れていた。洋と山路は道子と礼吉が会う手筈まで整えたが、礼吉は拒んだ。飽くまで自分を許してくれない礼吉の心を知った道子は錯綜するヘッドライトの中に身を投げた。彼女の重傷を警察から知らされた礼吉は、彼女の過去の過失にかかわらず自分にとって大切な人である事に気がついた。一路病院へと急ぐ車の中で、礼吉は号泣しながら道子の命を神に念じていた。