明治二十八年。吉原に近い大音寺界隈の子供達仲間では、金貸業田中屋の息子正太郎を頭とする表町の一派と仕事師長五郎の息子長吉を頭とする横町組の一派とに二分し対立していた。竜華寺の信如は、姉のお花が近々金持の家へ妾に行くことに決まったので胸を痛めていた。美登利一家は、美登利の姉大巻が吉原きっての遊女である関係から大黒屋の世話になっていたが、大黒屋の主人は美登利も遊女として出すのを楽しみにしていた。信如と美登利は思慕を寄せ合っていたが、田中屋の正太郎も美登利を思っていた。筆屋という荒物屋の主人お吉は、その昔吉原で鳴らした遊女であったが、美登利の将来を思って心を痛めていた。姉の大巻も連日の過労に弱っていたが、笑顔で客に応じなければならぬ身だった。一年一度の祭りがやって来た。表町派は美登利を中心に集り、横町派は信如を中心に立てたが、信如は姉が家を去る日なので顔を見せなかった。やがて大乱闘が始まったが、美登利は信如が横町組に味方するのが淋しく、偶々長吉に足蹴にされたのも口惜しく、漸く信如を探すと口汚くののしったが、信如は黙って立ち去って行った。妾に出た信如の姉お花は辛い日々にもどうすることもならず、一方大巻も薬をのみながらの苦闘であった。やがて美登利もすべてをあきらめ花魁に出ることになった。初見世の日、御本山に入って修行をするという信如とも別れを告げ、大黒屋の主人に連れられ吉原のはね橋を渡る美登利の手には、信如が置いて行った水仙の一枝が握りしめられていた。