日本未利用土地開発公団の副総裁岩淵の娘佳子と、秘書の西幸一の結婚式は、異様な舞囲気に満ちていた。政界、財界の名士を集めた披露宴が始まろうとする時、公団の課長補佐和田が、のりこんだ捜査二課の刑事に連れ去られた。押しかけた新聞記者たちは、五年前、一課長補佐が自殺しただけでうやむやのうちに終った庁舎新築にからまる不正入札事件に、やはり現公団の副総裁岩淵と管理部長の守山、契約課長の白井が関係していたことを思いだした。ウェディング・ケーキが運ばれてきた。それは、五年前の汚職の舞台となった新築庁舎の型をしていた。しかも、自殺者が飛び降りた七階の窓には、真赤なバラが一輪突きささっていた。その頃、検察当局には差出人不明の的確な密告状が連日のように舞いこんでいた。そのため、開発公団と大竜建設の三十億円にのぼる贈収賄事件も摘発寸前にあった。だが、肝心の証拠が逮捕した和田や大竜建設の経理担当三浦の口からも割りだすことができず拘留満期がきて二人は釈放された。三浦は拘置所の門前で、トラックに身を投げ出して自殺、和田も行方不明となった。和田は公団の開発予定地である火口から身を投げようとした。その前に立ちふさがったのは西だった。翌日の新聞は、和田の自殺を報じた。奇怪な事件がまた起った。岩淵と守山の命で貸金庫の鍵を開けた白井が、金が消えさっている代りに、例の新築庁舎の絵葉書が一枚残されているのを発見したのだ。その貸金庫のカラクリを知っているのは、白井と死んだ和田しか知らないはずだ。白井はその夜、自宅の街燈の下に和田の姿を見て、ショックのため気が狂った。そんな白井が不正事件を発覚させないかと案じた大竜建設の波多野社長と金子専務は、岩淵と守山に処分を命じた。彼らは殺し屋を使って白井を消そうとした。白井を救ったのは、またしても西だった。西は五年前自殺した古谷の息子だったのである。すべては父の復讐をするためだったのだが、守山に感づかれた。西は守山を造兵廠跡の廃墟に閉じこめた。和田が佳子を電話で呼び出し、廃虚に連れてきた。何もかも聞き幸せですという佳子を、西は初めて抱きしめた。帰った佳子を岩淵はだまし、西の居所を言わせた。西は薬用アルコールを静脈に注射され、自動車に失心状態のまま押しこまれて、貨物列車にぶつけられた。岩淵は記者に「申し分のない秘書を、しかも、娘の婿を失って呆然自失--」とつぶやいた。