それぞれの決意
古都鎌倉の旧家が舞台、しかも原節子主演となると、まっさきに小津安二郎監督作品が思い出されるが、本作は成瀬巳喜男の手による。淀川長治氏から「貧乏くさい監督」とらく印を押された成瀬監督も、鎌倉が舞台とあっては貧乏くささもなりを潜めている。
キャスティングが大胆だ。菊子と修一の夫婦役は前週観た「めし」同様、原と上原謙だが、修一の父親信吾に山村聰が扮している。1909年生まれの上原に対し、山村は1910年生まれ。早生まれだから同級生で親子を演じていることになる。ちなみに原は1920年生まれだから上原との夫婦役はともかく、義父と年が近い。山村が老け役に徹しているが、原と二人で歩いているシーンは恋人同士に見える。
息子夫婦と親夫婦は同居しており、父と息子は同じ会社に勤めている。専業主婦が二人いることになるが、家事はもっぱら嫁がこなし、姑は楽隠居だから、嫁姑関係も良好だ。同じおぜんを囲み、嫁がかいがいしく、給仕する。夫の修一は毎晩付き合いで帰りが遅いので、夕飯を共にすることが少ない。菊子が家政婦にも見えるが、信吾と接している時の方が夫といる時より楽しそうだ。信吾も何かと菊子に優しくするものだから、子供を連れて帰って来た娘にねたまれるほどだ。
修一には外に女がおり、そのうわさは同じ会社にいる信吾の耳にも入る。菊子に知られる前に何とか別れさせようと女に会いに行き、そこで二人の戦争未亡人に会う。二人は同居し、誰の世話にもならずに暮らしている。今風に言えば、ルームシェアをしている自立した女性だ。昭和20年代にしてはかなり発展的だろう。信吾は思わず財布から金を取り出し、渡そうとすると、「手切れ金ですか? 受け取りでも書きましょうか?」とすごい剣幕だ。すでに修一と別れる決心はしているようだ。
この二人に比べると菊子が何とも軟弱に見えるが、ついに彼女も行動を起こす。菊子からの電話の声を聞いたときに彼女の決意を悟ったという信吾もある決意をする。それぞれの旅立ちでもある。